人気ブログランキング | 話題のタグを見る

日々の雑記帳:23

居酒屋慕情

「お帰りなさい!」
暖簾をくぐると若い娘のこの声に迎えられる。
その頃、まだ若かった私には何だか気恥ずかしくもあり、
くすぐったくもあるかけ声だった。
コの字形のカウンターはいつもの常連客やなんかで埋まっていて、
私のような新参者は隅の方を詰めて貰ってようやく座るといった具合だ。
隣の白髪サラリーマン氏によると、あの声がだんだん心地よくなってくるという。
「サバ、美味しくなってきたよ」と、かけ声が掛かる。
主人に勧められた締め鯖もいいが、
脂ののった今頃の鯖は塩を降っただけの焼き魚でも充分旨い。
お湯割りの焼酎にはピッタリの肴だ。主人が厨房の隅でどんなもんだいってな顔している。
次に1本80円の焼き鳥と砂胆を2〜3本頼んで、またグイッと焼酎を飲む。
口の中でその日一日の穢れたものがきれいに消毒される感じがしてまんざらでもない。
黒板に書いてある本日のお楽しみ品を確かめ、自家製シューマイも追加する。
夕飯代わりの居酒屋だから酒は飯代わりなんだと思って程々にし、
その分オカズを効率的に採るようにしている。
と、言ってもそこはそこ、好きな味噌おでんとか野菜炒めで腹を膨らませる魂胆。
持参した文庫本に目を通しながら、酒とおかずで腹一杯になる。
もうこれ以上飲めない喰えないとばかりに勘定をすませるとこんな声で送られた。
「行ってらっしゃい!」
《06.11.20》

山代温泉

この忙しい年の瀬に明日と明後日、石川県の山代温泉に行ってくる。
名目上はM美の父親の姉が退院して言った一言
「温泉行って、旨いもん喰ってこ」という言葉に釣られて、
言った本人はもちろんM美の両親と私ら夫婦そしてT美まで付いて行くことになった。
平日2日も休むなんて、まあヤケクソみたいなもんだけど。
ワタクシごとで申し訳ないが、石川県に行くのは思い出せないくらいの何十年かブリ。
この地方の神社との関わりあい方、狛犬のアリヨウを見る絶好のチャンス。
早速、ホテルの場所を確かめようと石川県の詳細地図を買ってきた。
山代温泉というトコロは大日山の山並の途切れた田園地帯に出現したようなトコロ。
付近には太子温泉、別所温泉、山中温泉、観音温泉、粟津温泉、瀬領温泉、赤瀬温泉、
吉崎温泉、加賀橋立温泉、片山津温泉など、要は温泉だらけのトコロ。
これが山沿いの渓流沿いにあったら風情があってほだされるかも知れないが、
ここらは平地にできた田んぼの中の温泉だから、期待してもハナから無理な話。
山代温泉の中に服部神社と春日神社の2つあったことでヨシとしなくちゃ。
珍道中の後日談はまたということで。
《06.11.20》

中国人と日本人

中国のように早くから高度に発達した社会では
人間関係はまず相手を疑うところから始めるという。
中国では人間関係は絶えず裏切られることを予想しながらも、
時間を掛けてジリジリと距離を詰めていくというのが基本だという。
どんなに親しい友達でも決して心の底まで許すということはない。
うっかり心を許して弱味でも握られたら、どんな親友でも油断はならないのだ。
そういう中国人はいつも孤独で団結精神はない。全ては利害の打算で決まる。
それに比べると、ついこの間まで誰も彼もが貧乏だった日本の社会では
人間関係は今だに相互信頼の上に築かれているかのようだ。
相手の譲歩を勝ち取ろうと思えば、まず自分から譲歩するということから始める。
当然のことながら、日本人の団結精神はまだまだ強いし、
組織を作って全員が協力する能力においては中国人は日本人の足許にも及ばない。
その代わり個人プレーがモノをいう場合、
中国人は断然優れていて日本人をバカにしている。
全ては中国人と日本人の高度な文明社会に入ってからの年期の差から生まれてくる。
6ヵ国協議における日本と中国の対応を見るにつけ、
日本の外務官僚が情けないのではなく、
日本人自体の精神構造がそういうことに向いていないことだから仕方がない。
《06.11.24》

猿カニ合戦

江戸時代に記録されている『猿カニ合戦』の中には
タマゴ・昆布・牛糞などが活躍するバージョンもあるという。
私が知っている猿カニ合戦といえば、カニの床屋に無理難題をふっかけた猿を
栗と蜂と臼が各々の場面で協力して懲らしめる、という話だったはず。
江戸時代は栗と蜂と臼の見事な速攻Bクイックに更にタマゴ・昆布・牛糞の3種類が参戦。
いったいどんなコンビネーションを見せてくれるのか想像してみた。
猿がオムレツを食べようとしたらタマゴ焼きの中に殻が入ってて嫌な気分だった。
美味しい味噌汁を作ろうと昆布でダシを取ろうとしたら昆布が見当たらない。
お気に入りの新しい靴だから大事に履こうと思ってたのに牛糞踏んじゃった。
あんまりたいして意味がないから省かれてしまったのかもしれない。
話は変わって、役不足という言葉の意味をご存知だろうか?
「君にはそのポスト役不足な感があるな」といった使い方をする役不足である。
実はこの言葉、かなりの人が逆の意味で使っているようだ。
役不足という言葉の意味は1:俳優などが割り当てられた役に不満を抱くこと。
2:力量に比べて役目が不相応に軽いこと。またその役目に満足できないこと。
つまり「君にはそのポスト役不足な感があるな」というのは
「君にそのポストはまだ早い。君にそのポストは務まらないだろう」という意味ではなく、
「君にそのポストはもったいない。もっと大役を務めるべきだ」という意味なのだ。
…と偉そうに書いているが、私も実は最近知ったことで、
今までずっと間違った使い方をしていたようだ。反省、反省!
《06.11.24》

バベルの塔

事務所から見えるトコロにいわゆるシティーマンションがある。
と言うべきかあったと言うべきか、迷ってしまうような分譲マンションが建っている。
このマンション、準大手ゼネコンのY社が建設してマンション販売大手のS社が販売した。
値段でも安かったのか、私が病気になる前に建つと同時に完売状態だったはず。
しかし今年の初め頃から突然、外装の補修作業が始まった。
朝早くから夕方遅くまで外装のタイルを剥がすドリルの音が周りに鳴り響いていた。
「これでは住民もタマランな」と他人事ながら思っていたら、
秋に入って突然ドリルの音がしなくなった。「修理も終わったんか」と思ってたら、
いつまで経っても足場が取れない。台風が来ているというのに変化がない。
しばらくして、何か変だなと思って夕方何気なく見たら、全ての窓に灯りが点いていない。
よっぽどの欠陥マンションだったのか、知らない内に全ての住民が立ち退いていた。

日々の雑記帳:23_d0016658_7361189.jpg

















写真:朝日を浴びた残骸、まるでバベルの塔みたい。
《06.11.25》
by tomhana0904 | 2006-11-25 07:37


<< 猫のアルバム:1 名古屋巡礼記:93 >>